再販制度について基本的な説明

再販制度というコトバについて(1)

再販制度とは、「再販売-価格-維持-制度」の略です。

つまり「再販売価格を維持する」という行為が積み重なって、「制度」とみなされるような状態になったことをさします。

「再販売価格を維持する行為」と言っても、普通はなかなかピンと来ないと思います。順を追って説明しましょう。

まず「再販売」とは何か?

ふつう、商品流通は、メーカー(製造業者)がモノを作り、それを卸売業者に売り、さらに卸売業者が小売業者に売り、最後に小売店が消費者に売る、という流れをたどります。※1

※1 出版物の場合ですと、メーカーに相当するのが出版社(版元)、卸売にあたるのが取次(とりつぎ)、小売店にあたるのが書店やコンビニです。

この「メーカー→卸売業者→小売店」という流通過程の中で、商品を次の業者に「再び販売」するわけですから、これが「再販売」です。そして、そのときどきの販売価格を「再販売価格」と呼ぶわけです。

つまり通常は、再販売価格とは、卸売価格と小売価格のことと考えていいわけです。このうち、ふつう問題になることが多いのは小売価格のほうですから、「メーカーが再販売価格を維持する」ということは、「メーカーが小売価格を維持する」ことと理解して特に不都合はありません。※2

※2 出版物でいうと、「版元(出版社)が本の小売価格を維持する」ということになります。

★ポイント★
再販制度とは「再販売価格維持制度」の略である。再販売価格とは、小売価格のことだと思って差し支えない。

話は少しズレますが、「メーカー希望小売価格」というコトバを見たり聞いたりしたこと、ありますよね? 再販価格の維持というのは、実はこの「メーカー希望小売価格」どおりに販売しなくてはいけない、ということです。言い換えればビタ一文たりとも値引きしたりしてはならない、ということなのです。

「メーカー希望小売価格」は、あくまで「希望」なので、その通りの価格で売る義務は発生しません。したがって、家電量販店などでよく見るように「メーカー希望価格より○○円値引き!」ということができるわけです。

しかし「この価格で売れ、値引きするな」ということになったら、「メーカー命令価格」とでも呼ぶしかない。これが「再販価格維持」という行為なのです(念のためですがメーカーが認めない値上げも禁止です)。

つまり「再販価格維持」とは、小売店などに「メーカー希望小売価格」を強制する、ということです。端的に言えば、メーカー主導の「定価制」のことだ、ということで理解してもらって構いません。※3

※3 実際、海外の制度では「書籍定価法」などとよばれる法律があり、専門家はこれを再販制と同等のものと看做しているようです。

ちょっと手元にある本や雑誌の奥付や裏側を見てみてください。「定価」と書かれていますよね? ふつうの商品の表示は単に「価格」となってるか、ただ単に価格を表する数字だけが(たとえば¥○○とか)表示されていたり、あるいは販売店が貼ったシールだけで価格表示そのものがなかったりするわけです。

そもそも、販売価格は小売店がそれぞれ決めるものですから、これは当然です。

しかし本や雑誌の「定価」という表示は、「この商品はほかの商品とは違って、メーカーが命令した通りの価格で販売されなければならない」ということを宣言しているのです。このように、「定価」と「価格」の違いはけっこう重要なポイントです。

★ポイント
再販売価格を維持するとは、メーカーが、いわゆる「メーカー希望小売価格」を小売店に強制的に守らせる行為と考えてよい。ようするにこれはメーカーが決めた「定価制」のことだ。


再販制度というコトバについて(2)

さて、こうした再販価格を維持する行為が積み重なったかたちが「再販制度」、すなわち「再販売価格維持制度」なわけですが、この「制度」という言い方には、さまざまな誤解の根源となるトラップ(罠)があります。

まず、「再販売価格維持制度」という「制度」が、どこかに明示的に「ある」わけではありません。

そうではなくて、著作物の流通では、メーカー(出版社や新聞社やレコード会社)によって再販価格を維持する行為が行われても、法律違反にはならないため(※4)、そのような行為がデフォルト(基本状態)になってしまった実態があり、これを「制度」と呼んでいるだけなのです。

※4 このファイルのあとのほうで詳しく説明します。

この意味で「再販制度」とは、要するに業界の商慣習みたいなものです。いますぐにでも、メーカーが再販制度をとらない流通を選択するなら、それでもいっこうに構わないのです。つまり、出版社が定価販売じゃない新刊書籍の流通を行うなら、現在の仕組みをまったくいじらずに、明日からでもできることなのです。

「明日からでもできる」の意味は、おいおい説明していきますが、とにかく、仕組みをまったくいじらないのに再販価格維持でなくても商品流通ができるのなら、「制度」と呼ぶのはちょっとおかしいのではないか、と思えますよね。にもかかわらず「制度」と呼ばれるほど、こうした商品の流通の仕方が著作物では「あたりまえ」になってしまっています。こうした事態をさして「制度化」と呼んで差し支えないでしょう。

このような「制度化」が、「再販制度がなくなるためには法律を改正しなければならない」とか、「書籍の定価販売は法律で決まっている」などという初歩的な誤解を誘発しています。出版や新聞、音楽業界の人たちでも、こういう誤解をしている人たちがおおぜいいますので、われわれ素人は注意が必要です。

★ポイント
「再販制度」は明示的な「制度」ではないし、法律で決まっているわけでもなく、業界の取引の実態であって、その意味では商慣習にすぎない。


再販価格維持行為と再販価格維持契約

さて、メーカーが小売価格を「守らせる」とか「維持する」と言っても、ちらっと触れたように、商品の価格を決めるのは本来、それぞれの小売店のはずです。

家電商品でもパソコンでも食料品でも家具でも雑貨でも、つまり一般に商品は、小売店が勝手に値段を決めている(値付けしている)わけです。そうして、ぜひ自分の店で買ってもらおうと、必死で「価格競争」をしています。

小売価格を少しでも安くするために、メーカーや販売業者が、生産や販売の効率を良くしたり、さまざまな工夫をしたりすることで経済全体のパフォーマンスが上がっていく……。これが市場経済のメリットのひとつです。そういうことが自由にできるのが市場経済の基本条件のはずです。

では、メーカーが価格を維持するとか、小売店に価格を守らせる、と言っても具体的にはどうするのでしょうか?

まずメーカーは、小売店に「絶対にメーカー希望小売価格から値引きして売りません」という了解をとりつけます。そして、そういう「契約」を小売店と交わして、はじめて商品を卸すわけです。

こうした契約しないところには商品を卸しません。あるいは契約したにもかかわらずこれを守らない場合は違約金を取ります。あるいは商品を引き上げます。そうやって、メーカーが小売店の価格を拘束するわけです。※5

※5 実際に使われている(らしい)再販価格維持契約書の「ひな型」がネットで見られるのでリンクしておきます。
日本書籍出版協会のひな型
出版流通対策協議会のひな型

このように、メーカーが小売店の価格を拘束する行為を「再販売価格維持行為」、またその契約を「再販売価格維持契約」と呼びます。さらに、こういう取引の仕方が基本になっているような流通形態を、一種の制度と看做して「再販売価格維持制度」、略して「再販制」と呼ぶわけです。

★ポイント★
再販制、再販価格維持制度とは、メーカーが小売店と再販価格維持契約を結んで小売価格を拘束する「制度」のことだ。


再販価格維持行為は独占禁止法では原則違法

実は、こうした再販売価格維持行為は、「独占禁止法(独禁法)」という法律で原則として禁止されています。

独占禁止法というのは、経済の基本法と言われる法律で、市場経済の基本的なルールを定める法律です。

例えば、政府や地方自治体が発注する公共事業で、建設業者どうしなどが事前に話し合って事業の落札価格を調整することを「談合」といいますが、独禁法では、これはやってはいけないことになっています。こういう場合はたいてい、本当ならもっと安く上がるはずの公共事業が、業者間の結託のおかげで高めの値段設定で落札され、結局税金の無駄遣いになってしまう(社会全体にとって不利益になってしまう)からです。

ほかにも、例えばトヨタと日産とホンダとマツダと三菱自動車とスバルが合併してウルトラスーパーな自動車会社ができて、日本の自動車製造と販売を独占したりすると(海外からの輸入もなくなったとします)、日本人はもうこの会社からしか自動車が買えなくなります。そうすると、どんなに高くても、どんなに品質が悪くても、我慢してこの会社から買うことになって、社会全体としては非常に損をします。このように、あるメーカーが、こういう過剰な市場支配力を持つこと(市場独占)も、独禁法は排除しようとします。

つまり独禁法が重視しているのは、多数の事業者どうしの自由で公正な競争こそが、「社会全体の厚生」(社会全体の経済的利益)を高めるために必要不可欠だという認識です。これは市場経済を前提とする経済社会では基本的な理解となっており、G7とかOECD加盟国などの主要国に、建前としては共有されている価値観です。独禁法のような法律(競争促進法、というような名称でも呼ばれます)は、市場経済を標榜する国ならどの国にもあります。

というか、日本の独禁法じたいが欧米諸国の法律をお手本に作られたものなのですが。

★ポイント
「独占禁止法」は市場経済の基本的ルールを定める法律。
自由で公正な競争が経済社会の発展に不可欠だというのがその趣旨。

さて話を戻しますと、再販価格維持行為とは、すでに述べた通り、メーカーが定めた小売価格(定価)を小売店に守らせることです。では、なぜ再販価格維持行為は独禁法で原則違反とされているのでしょうか?

再販価格維持行為のようなことが一般的になると、例えばA社のBというパソコンは、どこに買いに行っても定価20万円、というふうになって、販売店同士の競争が生まれません。

これはちょうど、それぞれの販売店がそれぞれで仕入れたパソコンの販売価格について「談合」して、「A社のBというパソコンは20万円で売ろうよ!」と取り決めたときと同じ効果があるわけです。

各事業者どうしの談合を「カルテル」と呼びます。カルテルは、事業者どうしが横のつながりで談合して価格を取り決めて、競争を回避するものです。公共事業の受注で行われる談合もカルテルの一種です。

これに対して、再販価格維持行為は「縦のカルテル」と呼ばれます。メーカー・卸売・小売と、縦の系列で「談合」しているからです。メーカーが、どの小売店に対しても同じ定価での販売を強制するならば、結局のところ、上で述べたように横のカルテルと同じ効果を持ってしまいます。

本当はもっと安く買えるかも知れないのに、カルテル的な行為で値段を一律に決めることは、消費者の利益を損ねているかもしれません。つまり消費者が得てしかるべき利益がメーカーなどに不当に移転されている疑いがある。このため独禁法では原則として禁止される行為になっているわけです。※6

※6  独占禁止法の詳しい解説は、公正取引委員会の独禁法関連ページの独禁法概要へ。独禁法条文はPDFで提供。
HTMLで独禁法条文を読みたいならここ(東大の白石忠志教授のページ内)へ。

★ポイント
再販価格維持行為は独占禁止法で原則として禁止されている。


再販制は原則違法なのに例外としてOKの商品がある

しかし独禁法では、再販売価格維持行為を例外的にみとめる条文があります。その例外のひとつが「指定再販」と呼ばれる場合で、もうひとつが「著作物」です。

独禁法の条文に以下のようにあります。

第二十三条

第一項 この法律の規定は、公正取引委員会の指定する商品であつて、その品質が一様であることを容易に識別することができるものを生産し、又は販売する事業者が、当該商品の販売の相手方たる事業者とその商品の再販売価格(中略)を決定し、これを維持するためにする正当な行為については、これを適用しない。ただし、当該行為が一般消費者の利益を不当に害することとなる場合及びその商品を販売する事業者がする行為にあつてはその商品を生産する事業者の意に反してする場合は、この限りでない。

(中略)

第四項 著作物を発行する事業者又はその発行する物を販売する事業者が、その物の販売の相手方たる事業者とその物の再販売価格を決定し、これを維持するためにする正当な行為についても、第一項と同様とする。

法律の条文はわかりにくいですね。
要するに再販制が認められる商品にはふたつのグループがあります。

ひとつが上の条文の第一項で述べられているように、「公正取引委員会」(略して公取委)という政府の組織が、それぞれの商品について、ひとつずつ指定し告示することで認められるものです。これを「指定再販商品」と呼ぶことがあります。※7

※7 あとでもう少し詳しく説明します。

ふたつめが第四項の「著作物」です。この条文では、「著作物」は、指定再販商品と同じ扱いでいいよ、と言っているわけです。著作物は、指定再販商品のように公取委がひとつひとつの商品を審査して決めるのではなく、あらかじめ法律で書いてある、ということで「法定再販商品」と呼ばれたりします。※8

※8 実は「何が著作物なのか」も、公取委が決めているんですが、これも後述します。

こうしたふたつのグループの商品は、再販制を原則違法とした独禁法の規定から除外されている、という意味で、独禁法の「適用除外」にあると言われたりもします。

こういう言葉の細かい言い回しをいちいち覚えるのは面倒ですが、一度覚えてしまえば、自分で関連の書籍や資料を読む場合にかえって楽になります。

★ポイント
独禁法では原則として違反のはずの再販制だが、公取委が認める「指定再販商品」と「著作物」は例外として認められている。
著作物は条文に書いてあるから「法定再販」の商品だ、という言い方がある。
またこれらの例外規定を独禁法の「適用除外」などと呼ぶ。

なお、以上の説明からおわかりのように、独禁法の再販制適用除外の規定は「義務」ではありません。つまり、小売店に対してメーカーの指示した定価を遵守するように義務づけたものではない。条文ではただ単に、「メーカーが小売店に再販価格維持を強制したとしても、独禁法違反には問われない」としているだけです。あくまでも「禁止の例外」にすぎないわけです。これ以上にも以下にも、特別な意味はありません。

したがって「書籍は定価販売が義務づけられている」というような表現は非常に正確性を欠きます。定価販売は、再販価格維持契約の範囲内で「義務」とは言えても、法的な義務では全くないわけです。再販制度は、あくまでも民間業者間の取り決めなのであって、法的な取り決めではありません。

著作物の定価販売そのものは、あくまで任意の行為です。小売店が再販契約にもかかわらず、商品を安売りしたとしても、このことはすぐに違法ではありません。そうではなくて、「メーカーとの契約に違反」しているに過ぎないわけです。

再販制擁護論のなかには「再販制は著作権者や版元や販売業者の権利だ」と言わんばかりの主張もあります。これに至っては、なにをかいわんや、です。著作物の再販制度については、法的には、上にあげた独禁法の当該条文それっきりなのであって、「義務」だの「権利」だのを引き出してくる論理そのものがおかしいわけです。

また、業界団体のサイトでは、「再販制は独禁法によって認められています」という文章も散見されます(※9)。背景の説明無しに、この文章だけぽんと投げ出すのは、むしろ誤解を誘発することを狙っているのではないかと勘ぐりたくなります。

繰り返しますが、独禁法が「出版物の取引は再販制をむねとせよ」などとと推奨したり命令しているわけではありません。あくまでもただ単に、原則禁止行為の「例外」として扱っている、という意味なのです。

※9 たとえば日本書籍出版協会の、「本の再販制度についてご理解とご協力を」などを参照。だいたい民間業者の取り決めに、なんでわれわれ消費者が「ご理解とご協力」をせねばならないのでしょうか? 再販価格維持行為はただの「商慣習」ですから、我々の「理解や協力」など必要としませんし、我々が理解もしないし協力もしなくても、自分たちは独自に再販契約を結んでビジネスするわけでしょうに。実に妙な言い回しです。

★ポイント
再販制が認められる商品、つまり「指定再販商品」と「著作物」は、必ず再販制でなければならない、ということを独禁法が言っているわけではない。
再販制は法的な義務でもなければ権利でもない。
ただ単に「禁止の例外」としてゆるされているのにすぎない。

ここまで読んでいただければ、先述したように、再販制は「商慣習」にすぎないこと、したがって法律の改正など必要とせずに「明日からでも再販制はなくせる」ということの意味がおわかりいただけると思います。

再販制をなくす(なくなる)ためには、出版社や新聞社などが、明日から発売する新刊書籍や新聞について、再販価格維持契約を結ばずに商品を卸せばいいのです。独禁法の条文をいじる必要はいっさいありません。現状でも、そうしたメーカーの主体的な判断を、原理的には誰も止めることはできません。

もちろん「制度」としての「再販制」が崩壊するためには、多数の事業者によって多数の再販契約のない商品(非-再販商品)を流通させる必要があるわけですが。

念のためですが、もちろん独禁法が改正されて当該条文がなくなれば、再販制は晴れて違反行為になります。


指定再販商品とは何か

指定再販商品」とは、独禁法の規定に基づき、公正取引委員会の指定により、再販売価格維持行為があっても独禁法上問題とされない商品のことです。

何を指定再販商品にするかは、その業界から申告されたものを公取委が審査して決めます。かつて、この指定再販商品には、化粧品、染毛料、歯磨き、家庭用石鹸、雑酒、キャラメル、カメラ、医薬品、衿付きワイシャツ、などがありました。※10

※10 なお、再販商品の指定は、メーカーと小売店が再販価格維持契約をしたら、そのたびに、いちいち公正取引委員会に届けなければもらえないことになっています。独禁法の「その品質が一様であることを容易に識別することができるもの」という規定は、どの商品も同じ品質・同じ商品であると簡単にわかる、ということが指定再販の要件になっているということです。
つまり、これはブランド品のことだと言って差し支えありません。

「え、キャラメル? 歯磨き? ワイシャツまで?」と思いませんか。現在の時点で考えると、なぜこんなものが? と思わされます。実際、申告だけされて現実に指定された商品はひとつもない、なんてこともありました。

その後、これらの指定は徐々に取り消されていき、最後に残った1030円以下の化粧品14品目と一般医薬品14品目も1998年に廃止されました。

こういう経過をたどってみると、そもそも、ある特定の商品についてだけ再販価格維持行為を例外的に正当なものとして規定することに、はたして本質的な意義なんてあるのかな? などと、つい疑わしく思ってしまいます。

著作物再販制は、法的には、これらの指定再販商品と「同じ扱い」という位置づけにすぎないことに注意しましょう(前掲した独禁法23条の第4項の書き方を参照)。

★ポイント
公正取引委員会が指定する商品は再販制でもよいと独禁法にある。これを指定再販という。
しかし、そのほとんどが廃止されたいまとなっては、
特定の商品についてのみ再販制を認めることに、そもそも意義があるのかどうか、きわめて疑わしい。
著作物は、その指定再販商品に準じる扱いであることに注意。


法定再販としての「著作物」

著作物を「再販価格維持行為をしてもよい商品」として規定することは、上で述べた通り、独禁法23条にあらかじめ書かれているので(法定再販)、指定再販商品とは違って、メーカー(出版社や新聞社やレコード会社)が、いちいち個々の契約内容を届け出る必要はないことになっています。

出版業界、新聞業界、音楽業界が大手を振って再販売価格維持行為ができるのは、この23条第4項のおかげです。

しかし、この「著作物」の範囲には議論があります。実はこれは、結構重大な問題です。

日常使う「著作物」という言葉が意味するところにはかなり広がりがあります。しかし独禁法では、いちいち書いてないので問題になるわけです。

公正取引委員会は、著作物の範囲を、「書籍、雑誌、新聞、レコード、音楽用テープ、音楽用CD」の6品目としています。そうすると、では映画は? ゲームソフトは? CD-ROMやDVDはどうなるのだ? というふうに「著作物」と言えそうな範囲はどんどん広がっていく可能性があります。

特に「著作権法」という、これは文部省管轄の法律があって、こちらで扱われる「著作物」はかなり範囲が広いものなので、著作権法と独禁法のあいだの齟齬(そご)が問題になったりします。※11

※11 著作権法による著作物の定義は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」。例えば、映画やゲームソフトはもとより、設計図、衣服のデザイン、キャラクターのデザイン、商品のパッケージデザイン、コンピュータプログラム、データベース、etc...などなどが含まれます。
しかし、公取委としては「書籍、雑誌、新聞、レコード、音楽用テープ、音楽用CD!」と言い切って終わりにしたいようです。つまり例外は少ない方がいいわけです。

公取委のホンネとしては、これ以上著作物の範囲は広がらない方が望ましいし、もっと言えば、できれば範囲を狭めたいと考えているのは間違いありません。「禁止の例外」が少なければ少ないほど、独禁法の論理が貫徹できることになりますから。

★ポイント
出版業界、新聞業界、音楽業界が、再販制をとっていてもお咎めなしなのは、独禁法の適用除外のおかげ。
しかし「著作物」の範囲には議論がある。


再販売価格維持行為を集団的にやると違法

再販価格維持行為がゆるされるのは、あくまでも個々の事業者の単独実施が前提です。事業者どうしが共同して行ったり、業界団体が介在したりすれば、独禁法違反になります。このような行為を「集団再販」などと呼ぶことがあります。

例えばこんな話があります。

独禁法改正にともなって出版物再販制がスタートしてしばらくしたころに(1956年)、出版業界では再販制を定着させるために、版元、取次、書店の各代表からなる「再販売価格維持契約励行委員会」という組織を発足させました。

ところが、その規約に「再販契約違反行為者の制裁を委員会が実行する」とあったため、公正取引委員会から「委員会が制裁するならは独禁法違反だ!」と指摘されるはめになりました。

つまり業界団体が直接、当該事業者を制裁することは集団再販的行為だと看做され、違法扱いされるわけです。そこで委員会では、急遽「制裁は各事業者が行い、委員会は助言をする」というふうに規約を改めました。さらに「励行」の文字をはずして、再販価格維持行為を業界あげて共同実施的にやっているような印象を、なるべく薄めるようにせざるをえなくなったわけです。

しかし現在でも、出版業界では、業界団体が再販契約書のひな形を作って、これを各取引に適用するということも行われています(※9参照)。厳密に言うと、こうした行為も集団再販に抵触するのではないかという指摘もなされています。

また「日本レコード協会事件」も典型的な集団再販事件です。1976(昭和51)年9月、社団法人日本レコード協会は、レコードの安売りが増えてきたため、小売業者や卸売業者に再販価格維持の励行を求めるため具体的な方策を講じることを決定。その方法として

(1) 割引販売をしている小売業者には地区メーカー会の代表者、または取引先卸業者がその即時とりやめを口頭で申し入れる。
(2) 割引販売をやめない小売業者には内容証明付きの文書で申し入れ、なおやめない場合は出荷停止等を警告する。
(3) 割引販売をやめない小売業者には出荷を停止し、卸売り業者からも供給されないようにする。

以上のような内容の「割引販売対策について」と題する文書を、会員各社を通じて交付させました。

しかし、こうした行為は1980(昭和55年)年に公取委の審決で独禁法違反と認定されました。つまり、日本レコード協会が会員社の再販売価格の維持を励行させたことは、各事業者の活動を不当に制限する行為であって、独占禁止法の規定に違反する、とされたわけです(公取委勧告審決昭和55年4月24日審決集27巻18頁に詳述)。

★ポイント
再販制が認められる商品でも、集団的に再販価格維持行為をやるのは違法。再販契約はあくまでも個々の商品の流通で個々に行われるもの。
業界団体などが「集団的」に再販価格維持を「励行」するのは独禁法違反の疑いがある。


新再販制度

なお出版物の再販制度は、公正取引委員会の指導をもとにした「新再販制度」と呼ばれる仕組みに移行しています。

これは、当時の公正取引委員会の委員長・橋口収による「出版物再販制度見直し発言」(1978年、いわゆる橋口ショック)ののち、出版業界と公取委の意見折衝の結果まとめられたものです。しつこいですが、「新再販制度」と言っても、あくまでも業界の自主基準という建前です。

「新再販制度」は、定価制度の弊害を緩和するような試みを取り入れたことが特徴です。

そのひとつが「部分再販」です。これは、出版社が自動的にすべての商品を再販契約にするのではなく、一点ごとに再販にするかどうか決める、というものです。つまり、部分的に再販価格維持契約を行わないので「部分再販」ということです。部分的にではありますが、定価販売ではない商品が流通し、本の安売りも大いにありうるような「制度」です。

またもうひとつあげられるのが「時限再販」です。これは、出版後一定期間が過ぎたら再販指定をはずし、自由な価格で本を売ることを認めることです。時限を決めて、再販価格維持をやめるわけですから「時限再販」なわけです。

こうした種類の試みを「再販制度の弾力化」などと呼びます。「何が何でも定価維持!」ではなく、場合によっては定価をはずすして、ゆるやかにやろう、ということで「弾力化」と呼ばれるわけです。

しかし、こうして始まった新再販制度も、じつは形骸化しており、出版業界の努力はまったく不十分だ、ということが指摘されています。たしかに、「新再販制度」から20年以上経った今でも、部分再販も時限再販もごく例外的にしかおこなわれていません。

たとえば著作物の「再販制実施国」として有名なドイツやフランスでも、部分再販、時限再販が、ごく一般に行われています。一定期間過ぎた本が安売りされたり、最初から価格を指定しない本が流通したり、ということが日本よりずっと多く行われているのです。

また、フランスでは雑誌や新聞は再販制下にはありません。もっと言うと、音楽CDを再販制下にしているのは日本だけです。それにくらべて日本の制度は弾力的でない、つまり硬直化している、と批判されるわけです。

ドイツやフランスが著作物再販制をとっていることを、まるで鬼の首でも取ったように言う人もいるのですが、各国の実態は日本とはかなり違う、ということを、われわれ素人は知っておいたほうがいいでしょう。※12

※12 各国の再販制については本サイトの「海外主要国の再販制度」を参照。
注意して欲しいのは、再販制に対する評価は各国によってまだら模様のようにまちまちで、再販制があるから文化の高い国、ないから駄目な国、というような単純な話にはならないことです。また特に、雑誌・新聞・音楽CDについては、むしろ再販制を認めている国のほうが少ない、ということも留意したいところです。

★ポイント
ドイツやフランスの再販制度と日本のそれは、違う。
日本では部分再販や時限再販が、きわめて限定的なので、日本の再販制の運用は硬直化している、という批判がある。


再販制度見直しの現状

意外なことに、そもそも独占禁止法が著作物の再販制を認めた経緯は、じつはそれほどつまびらかではありません。

再販制がオッケーとなったのは1953年の独禁法改正からですが、このとき出版業界などが当局に再販制を認めるよう運動した形跡などは皆無と言ってよく、業界には再販制が認められることがメリットであるという認識さえなかったことが指摘されています。※13

※13 再販制導入の経緯については別ファイルでまとめる予定です。

戦前から、出版物は定価販売が主流でしたが、場合によってはバーゲンも行われたりもしていました。「日本で著作物再販制が認められたのには、相応の文化保護政策的な意図があったのだ」みたいなことが、これまた業界団体のHPなどに書いてあったりするのですが、そう言い切るには、あまりにも証拠が乏しいと言わざるを得ないのです。

競争政策の担当当局である公正取引委員会は、ホンネとしては指定再販や著作物再販制を認めたことを後悔しているようです。このことが、当局やその関係者によって再三行われる著作物再販制の見直し宣言に現れています。

90年代に入って「規制緩和」と呼ばれるような、一連の競争政策の転換が始まりました。これは国家が市場の競争条件を管理したり、許認可権や行政指導で商品やサービスの供給についてあれこれ口を出すことを少なくしよう、というものです。つまりもっと競争促進的にやろう、ということなわけです。

この流れの中で、いささか支流の問題としてですが、著作物再販制見直し論議もまた活発になりました。これを主導したのは、首相諮問機関の行政改革委員会や公正取引委員会の各種研究会や委員会です。

で、結局、いま再販制論議はどうなっているのでしょうか?

もっとも最近の議論では、「もうしばらく再販制は維持して様子を見る」ということで決着しています。これは、2001年に公正取引委員会が出した「著作物再販制度の取り扱いについて」という文書によるものです。この中で公正取引委員会は「競争政策の観点からは同制度を廃止し,著作物の流通において競争が促進されるべきであると考える」としながらも、「同制度の廃止について国民的合意が形成されるに至っていない状況にある」と状況分析した結果、再販制を「当面存置するのが相当である」と述べています。

それで著作物再販制は、現在も晴れて「お咎め無し」ということになっています。※14

とはいえ「当面のあいだ存置する」という表現からもわかるように、比較的遠くない時期に、公取委は再び再販制の廃止を含めた見直し作業に着手すると思われます。

ところでこの直近の論議の際に、公取委は、「国民は著作物再販制に賛成しているのか否か」という観点からパブリックコメントをとりました。

この結果は非常に驚くべきもので、寄せられた意見の98.8パーセント(!)が再販制維持に賛成というものでした。

この、不自然に大量の賛成コメントの背景には、出版業界や新聞業界などの膨大な「組織票」の存在が指摘されています。つまり一般の人々の関心が低くて、そもそもコメント自体が寄せられないところへ、勢い込んだ業界の組織票が威力を発揮しすぎた。この結果、「支持率98.8パーセント」という不自然な数字になってしまったと言われています。要するに、やりすぎ、なんですね。

また、もう一つの問題として指摘されるのは、再販制問題について、事実を報道すべき新聞社や出版社が利害当事者だということです。彼らは、再販制の既得権者として、おしなべて、その見直しには反対です。したがって出版社や新聞は、この問題を取り上げない、あるいは取り上げても「再販制は良い制度」という方向へ予定調和的に報道するきらいがあるわけです。

関連業界では、再販制は当面「お咎めなし」との決着を得て、ひとまず胸をなで下ろしているところです。しかし、実のところ、各業界内部でも、既存の再販制を前提とした流通制度を懐疑的に捉える人が少なからずいます。むしろ2001年の公取委の見解によって、問題が先送りされたととる向きもあります。

※14 公取委の「著作物再販制度の取り扱いについて」はPDFファイルで公開されています。「再販制支持率98.8パーセント」のパブリックコメントの結果も載っています。

★ポイント
公正取引委員会は著作物再販制をなくしたがっている。業界団体は結束して抵抗している。
著作物再販制を見直すことがよいことか、わるいことかは、国民ひとりひとりに判断が任されている。
新聞社や出版社は再販制の当事者であるから、事実関係の報道や意見に偏りがある可能性がある。


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